研究概要

FSR関連の臨床研究

a.脳梗塞急性期患者に対するピオグリタゾンの心血管イベント予防効果に関する検討/ピオグリタゾン脳梗塞再発抑制試験:Effects of Pioglitazone On Cardiovascular events in High-risk diabetic patients with acute brain infarction(EPOCH study);UMIN000001097

糖尿病合併急性脳梗塞患者に対するピオグリタゾンの効果を研究しています。糖尿病合併脳梗塞患者の治療ガイドラインの作成を目指しています。

b.脳梗塞におけるバイオマーカー探索、解析に関する研究:Research for Biomarkers in Ischemic Stroke(REBIOS)

株式会社三菱ケミカルホールディングス、株式会社モレキュエンスと共同で、日本人における脳梗塞のバイオマーカーを探索しています。脳梗塞に関連する新たな蛋白を発見し、画期的な診断法の開発および創薬を目指しています。

c.脳梗塞急性期における有害事象に関する研究

群馬大学(林邦彦先生)、九州大学(清原裕先生)、国立循環器病センター(峰松一夫先生)、田辺三菱製薬株式会社と共同で、脳梗塞急性期に起こる合併症について解析を行っています。

d.エアロゾルの脳卒中発症に及ぼす影響に関する研究(平成21年度〜平成22年度 科学研究費補助金「新学術領域研究(研究領域提案型)」)

国立環境研究所(新田裕史先生、上田佳代先生)と共同で、大気汚染物質広域監視システムにより福岡県内で浮遊粒子状物質を観測し、黄砂や粒子状物質が脳卒中の発症にどのような影響を及ぼしているかを検討しています。

e.脳梗塞患者に対する自家培養骨髄間葉系幹細胞の静脈内投与による細胞療法の検討(平成21年度〜平成25年度 文部科学省「橋渡し研究支援推進プログラム 拠点活用研究A」)

札幌医科大学(研究代表者:本望修先生)では、これまで脳梗塞亜急性期の患者12症例に対して、自己の骨髄幹細胞を静脈内に投与し、安全性と治療効果の面で極めて優れた成果を見出しています。FSR研究は、本治療法の実現に向けて、札幌医科大学、北海道臨床開発機構と共同研究を行っています。実用医療として普及させることへ向けたネクストステージとして、先進医療申請、確認申請を行い、治験届を視野に入れ、本提案研究の終了時点には、PhaseII まで終了する予定です。

f.看護師と医療保険者の役割機能拡大による新たな慢性疾患ケア提供モデルの構築(平成22年度〜25年度 科学研究費補助金「基盤研究A」)

本研究では、広島大学(研究代表者:森山美知子先生)、宮城大学、群馬大学、九州大学が共同で、慢性疾患ケア提供モデルを構築し、患者の重症化予防とQOLの向上を図るための研究を行っています。FSR研究に登録された脳卒中患者を対象として、疾病管理センターを設置しITを活用しながら、エビデンスに基づき有効な三次予防を行えるよう、疾病管理システムの確立を目指しています。

g.脳梗塞におけるバイオマーカーの検証に関する研究:Verification of Research for Biomarkers in Ischemic Stroke(VREBIOS)

REBIOSで脳梗塞との関連が明らかとなったバイオマーカーの有用性の検証とより精度の高いバイオマーカーの探索を目的として、田辺三菱製薬株式会社と共同で、脳卒中患者の血液試料を用いてバイオマーカーの解析を行っています。

h.脳卒中リスクスコアプロジェクト

日本脳卒中協会(山口武典先生)、富山大学(折笠秀樹先生)、サノフィ・アベンティス株式会社と共同で、脳卒中患者の再発リスクをスコア化するための解析研究を行っています。

i.研究課題「脳梗塞におけるバイオマーカー探索、解析に関する共同研究2(REBIOS研究2)」について

脳梗塞におけるバイオマーカー探索、解析に関する共同研究(REBIOS研究)は、脳梗塞の診断に役立つバイオマーカーを見つけるために行っている研究で、患者さんの登録は終了いたしましたが、現在も解析中であり、REBIOS2として研究を延長して行っています(2012/10/3-2017/3/31)。 REBIOS2研究では、REBIOS研究でご協力いただきました血液検査の結果を対象にいたします。もし患者様で研究の中断希望のある方は、下記連絡先までご連絡ください。

ご協力いただいている患者様のご負担が増えたりすることはありません。REBIOS2研究においても、REBIOS研究と同様に脳梗塞の検査方法に関する特許を九州大学知的財産本部と共同研究者である三菱化学、久山生活習慣病研究所の三者で出願する予定となっています。

詳細については、
九州大学大学院医学研究院病態機能内科脳循環研究室
も参考にされてください。

連絡先:研究事務局
九州大学大学院医学研究院病態機能内科脳循環研究室
担当者:松尾 龍  電話:092-642-5256

研究内容

多施設共通データベースを用いた脳卒中急性期患者の病態解明に関する疫学研究/
福岡脳卒中データベース研究:the Fukuoka Stroke Registry(FSR);UMIN000000800

疫学研究

a. 血圧研究グループ (リーダー:中根 博)

高血圧は脳卒中の重要な危険因子であり、十分な降圧治療は脳卒中の予防につながることが多くの研究で明らかにされています。しかしながら、脳卒中を発症した直後の血圧をどのように管理すればよいのか、まだ明らかになっていません。また、降圧薬にはさまざまな種類のものがありますが、それぞれ降圧作用プラスアルファの効果(例えば、脳梗塞による神経症候を軽くする、認知機能を高めるなど)を有するとの報告がなされており、これらの薬剤を使うことによって、例え脳卒中を発症しても軽症で済むことが期待されます。私たちはこれまで、各種降圧薬の自動調節能に及ぼす効果や脳保護効果についてラットを用いて検討してきました。

またポジトロン・エミッション・トモグラフィー(PET)を用いて、高血圧患者や脳卒中合併症患者と健常者の脳血流と代謝を比較検討してきました。これまでの研究成果をふまえて、FSRの血圧グループでは、多施設の多数例の脳卒中急性期患者を対象として、「脳卒中と血圧」というテーマでさまざまな角度から研究を開始しています。現在は、脳卒中病型と血圧との関係、降圧薬と脳卒中の機能予後、といった課題に取り組んでおり、今後は降圧薬を用いた介入研究も行っていく予定です。

b. 病態研究グループ (リーダー:杉森 宏)

わかっているようでわかっていない脳梗塞の詳細な病態を研究することに主眼を置いた研究グループです。全身疾患の一環としての脳卒中という観点から他臓器疾患(腎臓病など)との関連を研究するほか、豊富な症例数を誇るFSR登録患者から珍しい病態、病型を抽出して解析していき、隠れた発症機序を見つけだすことを目指しています。

c. 糖尿病研究グループ (リーダー:鴨打正浩)

我が国において、40歳から74歳の中高年で糖尿病が強く疑われる人は約820万人、その可能性が否定できない人は約1050万人いると言われています(厚生労働省、平成18年国民健康・栄養調査)。

これまでの研究から、糖尿病があると脳卒中に2-3倍なりやすく、糖尿病患者さんでは脳卒中を再発すると死に至る割合が高いことが分かっています。一方、糖尿病患者さんにおいて血糖を厳格にコントロールすると、細小血管合併症(網膜症、腎症、神経症など)を防ぐことはできますが、脳卒中など大血管合併症を予防できるかどうかは明らかでありません。

脳卒中を発症した糖尿病患者さんでは、どのような治療を行えば症状が軽くなり、また脳卒中の再発を予防できるか?日本で作られた脳卒中治療ガイドラインには血糖治療に関する指針がなく、治療は未だに手探りの状態です。 本研究は、日本人における脳卒中と糖尿病の関連について検討し、糖尿病を合併した脳卒中患者さんに対する最適な治療指針を確立することを目指しています。

d. 脂質研究グループ (リーダー:尾前 豪)

脳卒中と脂質の関係、脳卒中患者における脂質治療について研究しています。

ヒトゲノム・遺伝子解析研究

a. ゲノミクス研究グループ (リーダー:吾郷哲朗)

ゲノム(Genome)とは、遺伝情報をコードするすべてのDNAのことで、ヒトゲノムは約30億個のDNAの鎖によって形成されています。その中に約22,000個の遺伝子(=タンパク質をコードする領域)が存在しています。ヒトにおいて遺伝子DNAは全ゲノムDNAのわずか1%にも達しませんが、タンパク質は生体機能を司りますので遺伝子は重要な役割を担っています。ヒトゲノムは個人間でおおよそ同じですが、顔・体型が異なるように、個人間でわずかな差がみられます。これらの差(=遺伝的素因)が疾患の発症のしやすさと関連していると考えられています。医療現場におけるゲノミクス(Genomics)とは、ゲノム全体を見渡しながら疾患とゲノムの多様性との関連を探し出していく研究になります。

1990年に15年計画で発足したヒト・ゲノムプロジェクトは、2003年に完成版が公開され、ヒトゲノムのおおよそのDNA配列が明らかとなりました。さらにこれらの成果に伴い、DNA配列を決定する機器 (DNAシークエンサー)は驚異的な進歩を遂げ、現在わずか2ヶ月たらずで30億塩基の配列が解読されるに至っています。さらに、2014年頃にはヒト一人のゲノムが10分以内に、10万円程度の費用で、解読しうる時代が到来することが予測されています。すなわち「ゲノム診療」が外来診療レベルの検査となりうることを意味しています。

疾患の起こりやすさは、遺伝的素因および環境的素因の組み合わせによって決まります。勿論、遺伝的素因は単一ではなくその比重も疾患によって異なります。現在の一般診療では、遺伝的素因はほぼ「家族歴」によってのみ推測されていますが、将来的には得られた個人のゲノム情報を基に、より科学的に遺伝的素因を見つけだし、その素因に対して的確な治療がなされるようになると予想されています。また、各種治療薬の反応性にも個人差がみられますが、これも遺伝的素因(=ゲノムの多様性)によりある程度規定されていると考えられています。

我々はFSRを通して脳卒中の遺伝的素因を見つけ出すことで、各個人に応じた適切な予防治療を施し、また万一脳卒中となられた場合においても、より適切な治療を施せるように、「ゲノム診療時代」の到来に備えて準備を行っています。

b. プロテオミクス研究グループ (リーダー:吾郷哲朗)

プロテオミクス(Proteomics)とは、ゲノミクスという言葉に対応して遺伝子によりコードされるProtein(タンパク質)を網羅的に調べる研究のことを指します。様々なタンパク質は生体における生命現象を司っています。タンパク質の質や量に変化が生じれば、生体のバランスが狂い、疾患を引き起こす可能性が高いと考えられます。

我々のプロテオミクス研究では、脳梗塞急性期・患者さんの採血から得られる末梢血中に存在するタンパク質を網羅的に検索しています。何らかのバイオマーカーとなりうるタンパク質を検索中です。例えば、脳梗塞発症の予知因子となるマーカー、増悪進行や予後の予知因子となるマーカーなどが明らかになれば、脳卒中の発症予防、進展予防にも利用でき、診療上患者様にも大きなメリットが得られると思われます。

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